ボストンの冬と地下鉄
■北陸の冬 冬にも雷が鳴るのを知ったのは北陸へ来てはじめてであった。冬の雷はブリ起こしともいわれる。季節風が吹き荒れる冬の日本海であぶらののった寒ブリが定置網にかかり、北陸の冬の食卓を飾る。富山では師走にこの寒ブリを1本、娘の嫁ぎ先に届ける習慣があるという。どんよりとした鉛色の空が垂れ下がった北陸の冬は寒い印象があるが、しかし、雪が降れば気温はそれほど下がらない。 ■ボストンの春 しかし、アメリカ人は平気で町を散歩し、公園の池でスケートを楽しんでいて驚きである。いったいこの差はどこからくるのだろうと考えざるを得なくなる。よく暖房のきいた研究室から戸外をみれば空は真っ青で、太陽はさんさんと降り注いでいるようにみえる。しかし、これにだまされてちょっと散歩でも、などと思おうものなら、あっさりと寒さに期待を裏切られることになる。3月になってもそれは変わらない。4月になったらもういいだろうと思うとこれが甘いのである。まだ、身を切るような風が吹く。毎日、毎日、早く暖かい日々が来ないかと待ち遠しい。 360年前、メイフラワー号に乗った正教徒たちがボストン近郊にたどり着いたのは、秋の初めであった。食糧の蓄えも乏しい彼らは、この最初の年のきびしい冬を越せず、半数以上の人々が死んでいったボストンの町の中には墓地が観光名所として残っているが、その困難辛苦も実感として理解できると思ったものである。 ■奇妙な雷の正体 先に日本から友達のところに送ってあった荷物も持って来てもらい、生活をはじめた。ところが、夜になっても時々ゴロゴロという音がするのに気がついた。まぁ、今日は寒いし、季節風でも来て雷が鳴りはじめているんだろうと思った。 ところが、次の日もその次の穂も相変わらずゴロゴロ、ゴロゴロゴロと音がするではないか。冬の北陸によくみられる雷の音だとばかり思いこんでいたドクトルカメさんもこれはちょっとおかしいのではないかと気付いた。よく聞いてみるとだんだん小さなゴロゴロからはじまって徐々に大きくなり、まただんだん小さくなっていく。時差で眠れない夜などはこれはまずいアパートに決めたなーという反省がしきりであった。 この音の正体が決して冬の雷などではなく、アメリカ一の古い地下鉄がアパートの真下を通るせいだと気付いたのはそれから約一週間後であった。
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