アメリカの日本料理

 ■アメリカ人の日本食生活
 日本料理がアメリカでこんなにポピュラーになっているとは日本を出る前は想像もしなかった。
もちろん、その代表はすしである。恐らく、半分以上のアメリカ人はすしを食べた経験があるのではなかろうかとさえ思われるのである。ボストンの中心部にある日本料理店は日本人ビジネスマンや日本からの観光客もあてにしており、客の日本人の割合も70~80%である。
しかし、およそ、観光客の行きそうもない郊外の小さな町にも日本料理屋が確かに存在し、すし、てんぷら、焼き鳥、唐揚げなどは食べることができるのであった。

■すし屋
ドクトルカメさんの住んでいたブルックラインの町にも30人ぐらいがはいるTakesimaというのれんを掲げたすし店があったが、そのほとんどの客がアメリカ人だったのには驚き桃の木山椒の木であった。それも、あのアメリカ人が上手に箸を使って、醤油をつけて食べていたのは二重の驚きであった。感心して「ここの店は本なんかにはのっていないけど、すごくはやってますねー」と板前さんに聞くと、「うちは宣伝なんかする必要はないね」というそっけない返事であった。

一般に日本料理はタイやイタリアンレストランにくらべてやはり高く、ここのすしやでも安いもので10~15ドルほどしていた。これにサービス料15%、税金5%を足せば安くはない。あまり高いものは食べないアメリカ人がすしやを訪れるというのは、健康食であるというのが1つのトレンドになっていたのを通り越して、もう、すしはアメリカ人の食生活の一部になってしまっているのかもしれない。

この分でいくと、21世紀にはアメリカ人のことだから、すしはハンバーガーと同じ”アメリカ開国以来あるアメリカの郷土料理”だと信じられるようになるに違いない。その兆しに、ドクトルカメさんがあるホテルのすし屋で板前さんに話しかけたところ、日本語が通じなかった経験があった。おそらく中国人ではないかと思われた。そりゃそうだろう、すしさえ握れるならなにも人件費が高く、英語のしゃべれない日本人を雇う必要はない。最初は日本人と見分けがつかない東洋人が雇われるが、そのうち、メキシコ人やブラックアメリカンがすしを握るようになり、「Hei.Rasshai」と声をかけ、ロング万の英英辞典にはMaguroやUmi,Kappaが解説附きでのるようになるのに違いない。

■アメリカ式てりやき...Teriyaki
 ドクトルカメさんがボストンに着いたのは冬も真っ最中の2月であった。車もなく、日本料理店も知らないドクトルカメさんはアメリカへ着いてから2週間ほどいつもハンバーガーやチキン、インスタントラーメンを食べていてそろそろ醤油味の日本食が恋しくなっていた。

そんなある夜、ケンブリッジ通りを5分ほど登ったところにOsakaエクスプレス,Teriyakiと名付けたレストランを見つけた。これはしめたぞと思い、中へ入ってみると、スタッフは東洋系ではあるが明らかに日本人ではなく、言葉からベトナム系の人かと思われた。まぎらわしい看板をかけるなと腹が立ったがこの際仕方がない、外は凍えるほど寒いし、おなかもすいている。

メニューのなかにUdonと書いてあるのがあったので早速それを頼むと、出てきたのは、どんぶりではなく、細長いコーラを入れるような容器であり、中には醤油とはちょっと違った味付けのスープが入っており、たしかにUdonが入っていた。ちょっと、最初はためらったが、なんせ、久しぶりのうどんである。窓際に座って、あー、ボストンにきてしまったんだなー、日本の皆は今頃、どうしているんだろうなどとひとり感傷にふけりながらありがたく食べたのであった。しかし、その後ほかのアメリカ人の注文するのをみていると、どうも野菜と鶏肉を鉄板の上でジュージューといためて白いごはんの上にかけたものが人気があり、確かにおいしそうであった。そこで、ドクトルカメさんもまねしてそれを注文して食べたところ、たしかにてりやきの味がしておいしく、さらには白いごはんが食べられるのが何とも嬉しかった。

アメリカでTeriyakiとは”てりやき風味鳥野菜炒め、ライス添え”のことであって、日本のとはちょっと違うが、Tryしてみられるのをドクトルカメさんはお薦めする。しかし。逆に考えれば、これが”てりやき”と信じたアメリカ人が日本へ来ててりやきを注文すると”ほんとに、これ、てりやき?”と思うかもしれない。