アメリカ人と車

 ■噂は本当。
 アメリカ映画にしばしば異様に長いリムジンが登場することがある。
ホームアローンの中でマコーレ・カルキンがプラザホテルに乗り付けたあのキャデラックである。あれは映画の中だけの話ではなく、ほんとにアメリカの町中でかなりみかけることができるのである。
ゆうに8メートルはあろうかというまったく冗談みたいな車だが、いったいどんな人が乗っているんだろうと後を追いかけてみたくなるのも実際、正直な気持ちである。
きっと中では思いっきり足を伸ばして、冷蔵庫もあってカクテルかなんか飲んでいるだろうなと想像してしまう。

 ところがそういう贅沢な車があるかと思えばその一方でぼろぼろの車もいっぱい走っているところがじつにアメリカらしい。アメリカ人にとって車は下駄がわりというのは本当らしいのである。

■長寿車、下駄車
 エンジニアのビルはゆうに10年は経っていると思われるぽんこつのサーブに乗って片道1時間の道のりを通勤していた。

 私が帰国するとき車を売りつけようと思って、「ビル、そろそろあのサーブ、乗り換えたらどうだい」というと、「コ-ジ、エンジンというものは10万キロ走ってようやく調子がでてくるんだよ」と悦に入っていた。
もちろん、カーステレオやラジオ、エアコンのたぐいはついておらず、ただ走るだけの車である。
あんなボロい車で夜中にエンストしたらどうするんだろうと人ごとならずに心配になる。しかし、町中ではさらに驚くような車に遭遇するのである。

 あるとき、航空へ行く途中の道路で左側から合流してくる車を見たとき、唖然とした。なんとボンネットが“くの字”型に曲って視界さえもおぼつかないような車が走っているのである。また、乗っている人が実にどうどうとしていて、その落ち着いた態度からは事故を起こした直後とは思えず、相当前から委細構わず乗り回しているとしか思えない。もちろん、ヘッドライトなどは壊れてしまっている。
日本なら即、整備不良でつかまりそうである。日本人的な感覚からはとても恥ずかしくて乗っていられない車である。

 また、ドア側のウインドガラスが割れてなくなってしまっていて代わりに透明なナイロン袋を茶色いテープではり付けた車を見かけたことがある。どう見ても最近、はり付けたようには見えなかった。冬など寒いだろうにと思う。
おまけにテープの一部がはがれてナイロン袋をばたつかせて走っているのはご愛嬌である。

 まだあるぞ。
角型の材木がバンパーのかわりに針金でゆわえ付けてある車をみかけたことがある。
相当ひどくバンパーが壊れたか、また盗まれたかと思われる(他の例からいってバンパーがすこしくらいへこんだからといってアメリカ人が修理するとは考えられない)が、さらに笑わせられるのはご丁寧にも材木の一部をくりぬいてスモールランプがはめ込んであったことである。
まさか。冗談でやっているとは思われないが……他人の目を気にする日本人から見ればバンパーくらい買ったらどうだと思いたくなるが、そこは無駄なものにはお金を払わないアメリカ人である。
他人がどう思おうが全く気にしないアメリカ人気質をそこに見ることができるような気がした。

こんな具合であるからマフラーを引きずっていたり、サイドミラーがなかったり、車の一部が少々へこんでいるようなことはヘでもない。
郷にいれば郷に従えでドクトルカメさんも車は下駄だ、いや靴だと割り切れるようになってきた。

■焦・焦・焦…
 アメリカ人の車でもう1つおもしろいのはその多くに盗難防止の装置がついていることである。これはよほど盗難が多いことの裏返しでもあるが、ただし、バンパーのかわりにに木材がついているかどうかまでは知らない。
中古車を売りに出すときもこれが付いていると少しは付加価値がついてくるようだ。

 駐車をしている車を見ると、ときどきハンドルが鉄製のフレームで固定されているのに気付く。これが盗難防止器具の1つだが、いちいち車を下りるたびに取り付けることを考えるとかなりわずらわしい。

もうひとつは警報装置つきのものである。ドクトルカメさんのインテグラにはこれが付いていた。ドアを開ける時はリモコンで警報装置を解除するのだがこれを怠ると、ぴーぽぴーぽ、うーうーウ-ウ-、ワ-オワ-オとそれはそれは物凄い音で鳴り響く。そしてリモコンで警報を解除するまでいつまでも続くのである。

 あるとき、ドクトルカメさんは車に乗り込もうとしてドアを開けた途端、この警報が鳴りだしてあせっていまった。ちゃんとリモコンを押したにも関わらずである。
あちらこちらいじくって悪戦苦闘20分、リモコンをハンドルの近くで操作した後ようやく鳴りやんだ。どうやら、電池が弱っていたようだ。

誰か、車どろぼうと感違いして警察に通報しないかと冷や汗ものだった。